前回までのあらすじ
悩める18歳のピアニスト・鍵一は、恩師より音楽史研究のミッションを授けられ、1838年のパリへとワープする。フランツ・リストの勧めでサロン・デビューを目指すさなか、カール・チェルニーから贈られたのは、秘曲『夢の浮橋』の楽譜の一部であった。興味を惹かれた鍵一は、楽器製作者ピエール・エラールとともに『夢の浮橋』の復活上演を志す。
西陣探訪―秘曲の面影(Ⅳ)♪
「鍵一君のお師匠さん……B先生が養子に入られたお家は」登与子が身を乗り出した。「なにか、特別なお仕事をされてたんですか。ひと昔前のお話とはいえ、家業を継ぐために養子だなんて。けっこう大変な事ですよね」
「漆芸です」 織屋の主人は微笑んだ。障子に鳥の影が飛んだ。 
「漆芸というと、漆をつかう技法ですね。塗師※4か……蒔絵師※5かしら」と、さすがに陶芸家は詳しい。隣で鍵一は、塗師と蒔絵師なるものをイメージしてみる。その仕事を間近に見た事はなくとも、
legato
※6に塗り重ねられる漆の飴色や、
sotto voce
※7で撒かれる金粉が思い描かれた。織屋の主人はうなづいた。
♪プロフェッサーB:ピアノ曲集『金継ぎ(KINTSUGI)』

つづく
◆ おまけ
音楽小説『旅するピアニストとフェルマータの大冒険』がオーディオドラマになりました
日本最大級のオーディオブック配信サイト『audiobook.jp』にて好評配信中♪ 第1話のみ、無料でお聴きいただけます。ピアノ独奏曲『夢の浮橋変奏曲』
鍵一が作曲するピアノ独奏曲。幻の名曲『夢の浮橋』のモチーフを活かし、12の変奏から構成されます。2023年5月27日(土)、本作の音楽朗読劇とともに抜粋版が演奏されます。塗師(ぬし)
漆を塗る専門の職人。漆芸家。蒔絵師(まきえし)
漆で絵や紋様を描き、金粉・銀粉などを蒔いて加飾する専門の職人。legato(レガート)
音楽用語で「なめらかに」の意。sotto voce(ソット・ヴォーチェ)
音楽用語で「音量をおさえて小さな声で、ささやくように」の意。プロフェッサーB氏の愛用するポーリッシュ・ポタリー
第84話『河井寛次郎記念館にて(Ⅱ)♪』をご参照ください。プロフェッサーB氏の経歴
第61話『山羊座の19歳、浮橋を渡る♪』をご参照ください。金継ぎ
欠けたり割れたりした陶磁器を漆で接着し、金粉などで装飾する技法。 SF音楽小説『旅するピアニストとフェルマータの大冒険』(ふるたみゆき)TOP