Category VIII 「夢」

今回のテーマは「夢」である。その最もポピュラーなピアノ曲といえばシューマンの「トロイメライ」だろう。この曲については、かねてから思うところがあるので、別枠として後述する(当シリーズとしてのローベルト・シューマンは別のカテゴリーで扱う)。その他この世代(1810年代生れ)のピアノ曲に「夢」をテーマとしたものは多いが、さすがに短調で書かれた作品は容易に見つからない。毎回公開する4曲は同じ調性が重ならないよう、長・短調いずれにも偏らないよう工夫してきたが、テーマによっては圧倒的にどちらかに揃ってしまうものがある。長調の「葬送行進曲」を探すなど、時間の無駄であろう。

今日、「クラシック」として残った作品に「夢」のタイトルは意外に少ない。これは劇的であったり、深刻な悲壮感を持つ作品をより名作と考えてきたことの裏返しでもある。ピアノが世に現われた時、音楽家たちはこぞってそこに夢を見、夢を託した。“失われた夢”の一端を拾ってみよう。


「ピアノの練習ABC」、「ラジリテ」を書いたル・クーペは傑出したピアノ教育者として知られ、教則本以外にも極めて上質の、味のある小品を書いている。私の手許には上記の二作を収録した安川加寿子演奏によるLPレコード(ビクターSJV-1203)があるが、驚くべきことに、ここにはル・クーペの作品であるということすら書かれていない。ということは、彼の名はほとんど認識されなかったらしい。「夢」は「心の歌 Op.12」全3曲の第1曲

ル・クーペ:心の歌 Op.12 第1曲「夢」 Félix Le Couppey / Chants du cœur No.1 "Le Rêve" pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2016/6/19)