Category XVIII「変奏曲 Variations」
メンデルスゾーンが「厳格な変奏曲」Op.54において、敢えて「厳格」(Sérieuses)と断ったのは、「そうではない」変奏曲が19世紀前半の主流だったことによる。それらの多くは流行オペラの主題による「幻想曲」と同列の内容で、若きピアニスト・コンポーザーたちが自らの力量をアピールする上で必須の演目でさえあった。これらは元来が即興演奏であり、当時のコンザート最大の呼び物となっていた。即ち、衆知のメロディをいかに扱い、料理していくか、に聴衆の関心が集まったのである。しかし、20世紀に至ると作品のオリジナリティが重んじられ、演奏家は即興を行わなくなり、こうした変奏曲は顧みられなくなった。ここでは、19世紀のピアノ文化の華としての変奏曲をテーマに選曲を行なった。当シリーズのカテゴリー中、最も大規模で「ピアノ・ブロッサム」の中核に位置するものとなっている。
堅実な書法、達人的テクニック、しなやかで軽快な身振り。ジャック・(ヤーコブ)・ローゼンハイン(1813-1894)の音楽はまことに健全な活気をモットーとする。だが、20世紀の価値観がこの時代の音楽に求めたものは悩ましく、悲劇的なロマンティシズムであった。それゆえにローゼンハインは見失われたといえそうである。彼は決して流行オペラのパラフレーズ作家ではなかったが、ドニゼッティの主題で当世の流儀に倣い、見事な範を示している。
J.Rosenhain:Variations Brillantes sur un motif de l'Opéra BELISARIO de Donizetti Op.29 ト短調-ト長調 pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/2/14)