ヤマハ掛川工場 見学レポート


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ヤマハ掛川工場は静岡県掛川市にある東京ドーム5個分、という広い敷地を持つ「ピアノのふるさと」です。このたびご招待をいただき、ピティナ事務局のスタッフ4名が、工場見学の機会を頂きました。極めて貴重な体験でしたので、内容の一端をご紹介します。

レクチャー

この日は普段から掛川工場に勤務している方のみならず、開発、製造、販売、中古品の再生といった「ピアノの一生」を支える各部門の責任者の方々に集まって頂いており、午前中は皆様からのレクチャーを受けました。場所は工場全体の玄関にあたり、様々な展示やイベントも行われる「ハーモニープラザ」内です。

一時限目「ヤマハピアノの設計思想」

ピアノ開発部の泉谷(いずたに)さんからはヤマハ・ピアノの設計思想について伺いました。ピアノが現在の形になって100年。一見、大きな変化は無いように見えますが、実は不断の開発によって、改良が続いています。設計思想の根幹にあるのは「表現力の拡大」です。「楽器が表現力を持つ」ということには二つの軸があります。すなわち奏者が思うままに表現できる性能を持つということ。そして、長い期間にわたって表現力を保つことです。

現代のピアノ作りは演奏する人の音楽的要求に応えることはもちろん、個々の楽器の耐久性を高め、環境へも配慮した製造工程を経ることにより、ピアノ、ひいては音楽文化の存続を視野に入れて成されねばなりません。深く遠大な考えに感動するとともに、そんな工場が身近にあることが誇らしい気持ちになりました。 泉谷仁さん 泉谷仁さん ヤマハ株式会社 楽器事業本部 ピアノ事業部 ピアノ開発部部長 二時限目「ヤマハピアノの耐久力と商品力~長年安心してお使いいただけるヤマハピアノ~」

ヤマハピアノサービスは中古ピアノの再生と販売を手がける関連会社です。同社が手がけたピアノはヤマハ認定の「リニューアルピアノ」となり、高い品質が保証されて新品と同様のアフターサービスを受けることができます。

同社は販売用のピアノ再生の他に、歴史的なピアノやオルガンの修繕等の活動にも取り組んでおり、技術力を保ち、高め続けているようです。 かつてピアノは比較的短い期間で買い替えを奨励するような販売方針がとられていたような時代もありました。現代においてピアノはほんの数年で消費されるようなものとはみなされません。数世代を超えて受け継がれていくことが前提となっています。これを技術力や流通の体制をもって支える同社の活動は、ピアノの文化的な価値を高めるはずです。 黒沢國久さん 黒沢國久さん ヤマハピアノサービス株式会社 代表取締役社長 三時限目「ヤマハグランドピアノ ラインナップの考え方」

ヤマハ・グランドピアノのラインナップをマーケティング&セールス担当の渥美さんから紹介して頂きました。2024年現在の同社のグランドはCF、SX、CXという3つのラインに大別されます。日本人にとって馴染深いブランドですから、即座に「あの楽器か」とイメージされる方も多いと思いますが、念のためおさらいをしておきます。

CFはコンサートの現場で演奏家の要求に即座に応えられる楽器です。SXは特に音づくりに直結する部分でCFと同等の手間をかけられた上級ラインで、音楽大学教授やピアニストの自宅に置かれて時間をかけた音楽的探求のパートナーとなるよう想定されているそうです。そしてCXは高度な表現力を指導し、学ぶことに適した作りがされています。 午後の工場見学では各ラインナップのピアノが製造現場内で混在していましたが、ラインごとのコンセプトの違いを知って、実際の楽器の「つくり=構造」を観察することができました。 渥美志洸さん 渥美志洸さん ヤマハ株式会社 楽器事業本部 ピアノ事業部 ピアノマーケティング&セールスグループ 主事 工場見学

この日は通常の見学コースであるグランドピアノの組立工程に加えて、一般には非公開の場所もいくつか見せて頂きました。当然ながら企業秘密の場所も多く、写真や映像の紹介が難しい場所も多いですので、文章で表現するよう努めます。

ピアノの木枠作りから塗装まで

午前中にレクチャーを受けた「ハーモニープラザ」から数百メートル、10分ほど徒歩で移動したのち、工場の棟内へ入りました。その場所では板材を貼り合わせてピアノの枠組みを作る、製造の初期段階を見せて頂きました。大型のプレス機で板を貼り合わせる様子から、外枠を比較的長い時間保管する乾燥室へと移動し、工程に沿って木枠の仕上げ作業の場所へと移動していきます。

塗装の下地作りのための「磨き」が自動機械と併せて、かなりの部分が人の手で行われているのが印象的でした。 いっぽう、ロボットによる塗装の様子は、余剰の塗料を流すために常時滝のように水が流れる無人のブース内で行われており、圧巻の迫力でした。 [](/images/articles/5c196899b8c5562e.webp) 写真中央の板材がピアノの外枠になります [](/images/articles/a2106ce07dfb6cd5.webp)貼り合わされた板材をプレス機でピアノの形に成型 [](/images/articles/20222ec1c6a735f9.webp)塗装工程が示されたサンプル 組立工場

「手作り」の雰囲気を感じたのは組立工場でも同様でした。この棟の工程は塗装を終えた木枠と金属のフレームを合わせるところからスタートします。アクションの組付けなど、組立そのものは機械で行われるところが多いのですが、より時間がかかる調整の作業は多くが人の手によります。

[](/images/articles/20c70a639bdb9300.webp) 木枠とフレームが組み合わされます。 [](/images/articles/035bbdce567dd18a.webp)響棒を取り付ける直前の響板。 [](/images/articles/e1674e0d71614e98.webp)弦を張る作業の様子 [](/images/articles/a752b7b8dd6d9abd.webp)鍵盤を調整しています [](/images/articles/c1f4fa7bb7a66e3d.webp)鍵盤・アクションを取り付けています [](/images/articles/87994c15a4be5698.webp)工場の「メインストリート」。全体の広さは東京ドーム5個ぶん ピアノの再生工場

「リニューアル・ピアノ」を整備する工場も見せて頂きました。ここで取り扱っているピアノのうち、比較的古い1970年代のアップライトピアノは主にヨーロッパへ輸出されるとのこと。もちろんきちんと整備しています。いっぽう日本のユーザーは見た目にも高いクオリティを求める傾向があるため、1980年代以降の比較的新しいピアノが「リニューアル」の主な対象になります。

修理作業を待つピアノの状態は様々ですが、この工場では組み立て、整備、塗装など一通りの工程をこなすことができ、比較的クラシカルな雰囲気から工場というより「工房」と呼びたい建物でした。戦前に作られた歴史的なピアノを修理している現場も見せて頂きました。そのピアノは販売用ではなく歴史的資料として演奏できる状態で保存されるようです。

ピアノテクニカルアカデミー

工場見学に続き、調律師の養成を行う「ピアノテクニカルアカデミー」を見学しました。場所は最初にご案内いただいた「ハーモニープラザ」の3階です。
調律師の新規養成を担い、一年間(全寮制)でアップライト、グランドピアノの調律・調整技術を身に着ける「総合コース」に所属する在校生は15名とのこと。見学時は一台ずつピアノが備え付けられた個室を使って授業の最中でした。既に調律師として活躍する方々のスキルアップを目指す上級のクラスも開講中で、フルコンサートピアノが備え付けられた部屋が4部屋並ぶなど、素晴らしい設備でした。人の作ったピアノを長らく良い状態に保つのはやはり人の力です。掛川工場は、ピアノの行く末を見守る人を育てる場所でもありました。


今回の見学そのものが貴重な体験でしたが、開発に携わる泉谷さんや、各工程を担当する責任者の方も同行し、随時質問に応えて頂き、多くの学びを得られました。印象的だったことをいくつか列挙します。

  • 響板と響棒が2012年から形状変更された。ピアノの心臓部と言える部分にすら、いまだに技術革新が続いている

  • 響板は一枚板で作ることは難しい大きさでありいくつかの板が接着され形作られているが、接続面の強度と柔軟性は他の部分と変わらない

  • 大きいピアノほど低音弦が細い(=細くすることができる)

    工場見学と「選定」の勧め

工場見学は常時受け付けているそうでピアノに携わる方はぜひ、楽器が生まれるところをご覧いただきたいです。必ず感動するはずです。

また、グランドピアノ購入時には、モデルにより掛川工場で最大3台のピアノを準備してもらって選定を行うことができます(申込は各地のヤマハのお店を通じて行います)。 ピアノ選びが一生の思い出になることは間違いありません。ピアノの先生がお客様に同行されることも多いそうですので、指導者の皆様は生徒さんにお勧めしてみてはいかがでしょうか。

ピティナ事務局

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