図1 『チュイルリー宮殿、元帥の間での帝室カドリーユ』 中央がナポレオン三世
(引用元:Bibliothèque Nationale de France)
カドリーユの音楽的特徴
カドリーユは一般にテンポの異なる5つの部分からなり、それぞれの部分は「フィギュール」と呼ばれ、独特な名前で呼ばれます。カッコ内は、それぞれの言葉の文字通りの意味を示しています。
- パンタロン(ズボン)
- エテ(夏)
- プーレ(雌鳥)
- パストゥレル(牧歌風)またはトレニ
- フィナーレ(終曲)
いずれのフィギュールも、比較的早いテンポで、ごく単純な和声の上でメロディが規則的に変奏されます。
ここでチェルニーの第5番の冒頭を見てみましょう。この曲は左手が三連符による分散和音の反復的な伴奏、右手が鋭い付点のリズムです。楽想は「生き生きとおどけてVivace giocoso」とあります。
C.チェルニー《30のメカニスム練習曲》 作品849 , 第5番、第1~8小節

この右手の付点のリズムはカドリーユに頻繁に登場するものです。下の譜例は、パリ音楽院教授ヅィメルマン(1785~1853)がソナタやコンチェルトなどシリアスな作品の傍らで出版したカドリーユ集から、「エテ」のフィギュールです。
ヅィメルマン《ピアノのための変奏コントルダンス》

最初の8小節はV度とI度の二種類の和音しか使われず、ごく簡単な和声の上に、付点16分音符と32分音符の反復するリズムのメロディが置かれています。
同様の例は、ヅィメルマンが出版した別のコントルダンス集にも見られます。このコントルダンス集は、ヅィメルマンの先生だったボイエルデュの舞台作品の主題に基づくものです。次の例は、「パストゥレル」のフィギュールの第3番目のフィギュールです。
ヅィメルマン《ピアノのためのコントルダンス 第2集》より

ここでもヘ長調の主和音が繰り返される上で、軽快なスキップのリズムが奏でられます。
今日、都市の社交界では特別な機会にしか踊られなくなったダンス、カドリーユ。ピアノを踊りから自立したものとして捉えがちなピアノ音楽のかなりの部分は、踊りのリズムと関係があります。ピアノを学ぶのと同時に、こうした西洋の伝統的なダンスを学ぶ機会が日本でも広まるときっと実感に支えられた演奏の学びが深まっていくのではないでしょうか。
[^1]: Andrea FABIANO, Il fortepiano, Firenzem Passiglim 1990. ここでは下記文献で引用されているFabianoの成果を参照した。Danièle PISTONE, << Les danses pour piano au siècle romantique : Quelques aspects de l'évolution parisienne >>, dans Piano et musique de danse dans la France du XIXe siècle, Paris, Université Paris-Sorbonne, Observatoire Musical Français, 2010.