Category XXIII「涙 Tears」
この時代のピアノ曲に見られる「涙」は日本人が考えるウェットなイメージとはかなりの差がある。そこに同情、憐れみを求める心情はなく、品位と節度を失われない。意外にもこのタイトルからは、作曲者の基本的な人間性、センスが明らかとなるが、そうした作品は今日まで伝えられることがなかった。
20代で二年間のエジプト滞留を経験したフランス人フェリシアン・ダヴィッド(1810-1876)は本格的なオリエンタリズムを最初に実践した作曲家となった。メインはオペラを含む声楽曲だが、ピアノ曲も断続的に書かれ、「6つの交響的エスキース」(1856)の第3曲が「涙と諦め」と題される。ル・クペーに献呈。生涯と通じて、Op.番号を持たない作曲家だった。
F.David:Larmes et Regrets, 3me Esquisse Symphonique ニ短調 pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/5/19)