「チェルニー30番」再考
第二部「30番」再考

18. チェルニーがパリで出版した練習曲(1856年まで)

先週は一回お休みを頂きました。今日からいよいよ連載の第二部「30番再考」です。第一部では、20年代から30年代まで、練習曲の変遷をいくつかの事例を通して見てきました。大量の練習曲が出版された時代ですから、これでもまだ意図的に書き落としたエチュード史の主要作品がかなり沢山あります。例えばアンリ・ベルティーニの《性格的練習曲集》作品66(1828)は、モシェレスが提示したような、性格的練習曲集のモデルになった作品です。

40年代に入ると性格的練習曲は一般化し、さらに若い世代のピアニスト兼作曲家たちが趣向を凝らした作品を多く生み出しました。無言歌や行進曲など様々な様式を練習曲に取り込んだ「様式の練習曲集」、「カプリース=エチュード」、「ワルツ=エチュード」といった、ジャンル複合型の練習曲も好まれるようになります。しかし、40年代の練習曲の変遷にはさらに多くのページを要するので、練習曲の大な流れをたどるのは一旦ここで止め、別の機会に譲ることにしましょう。

さて、第二部では「30番」に取り掛かる前に、予備知識としてチェルニーの練習曲創作を俯瞰することから始めたいと思います。話題を初回にまで戻して、再びチェルニーの練習曲について見てみましょう。チェルニーの出版した楽譜が、作品番号にして861に上ることは既に述べました。このうち、練習曲の占める割合は10分の1もありません。とは言っても、861の10分の1といえば86作品ですから、そんなにもたくさんの練習曲集があったら、かえって不気味です。

では、チェルニーは練習曲を何作書いたのでしょうか。とりあえず、練習曲と名のつくものだけでも29点がパリで出版されています。これに、パリで出版が確認されていない練習曲または練習曲集が少なくとも16作品あるので、1856刊行のいわゆる「30番」までの間に合計で少なくとも45作は練習曲または練習曲集を発表していることになります(これはあくまで現段階の調査に基づく数字です)。

次の表は、チェルニーの生前、パリで出版された32の練習曲(集)の一覧です。「24の~」などの数字付き、もしくは「~集」と訳したもの以外は、単数形の練習曲étudeです。

表1 パリで出版されたチェルニーの練習曲集/練習曲一覧

Op.
タイトル
パリ初版年
備考

161
全長短調による48の練習曲-前奏曲とカデンツァの形式による
1830

261
基礎的練習曲
1833

299
敏捷さの練習曲集
1833

335
レガートとスタッカートの練習曲集
1834

337
40の練習曲からなる日々の訓練
1835

365
ヴィルトゥオーゾの学校―華麗さと演奏の練習曲集 (通称「60番」)
1837
通称「60番」

400
フーガ演奏と厳格様式の作品を演奏するための学習、12の前奏曲と12のフーガを含む
1837

409
50の特別な練習曲
1837

636
24の敏捷さの小練習曲 作品299への導入として
1841

672
24の優雅な練習曲
1842

684
練習奨励―24の楽しい練習曲
1842

692
24の性格的大練習曲
1843

694
年少者の練習曲―25の極めて平易な前奏曲
1842

699
指をほぐす技法―50の向上の練習曲
1844

718
左手のための24の平易な練習曲
1843

748
25の平易で段階的な練習曲
1844

749
進歩,25の練習曲,J.B.クラーマーの練習曲集への導入
1844

753
進歩, 30の練習曲
1844

754
6つの練習曲、またはサロンの楽しみ
1846/1847

755
向上―25の性格的練習曲
1845

765
流れる練習曲
1846

779
不屈の人―敏捷さの練習曲
1846

807
100の練習曲
1850

818
50の能弁の練習曲
1851

819
旋律―28の旋律的で響きの良い練習曲
1851

820
90の新しい日々の練習曲
1851

838
根音バスのあらゆる和音についての実践的な知識を得るための練習曲集
1854

849
30のメカニスム練習曲(通称「30番」)
1856
通称「30番」

(-)
練習曲の練習
1843
様々な練習曲のパセージを集めた練習課題集

注 パリでの初版が現段階(2014年現在)の調査で確認されていない練習曲:139*(通称「100番」), 388, 433, 495, 632, 706, 727 (2 pf) , 735, 740, 756, 767, 785, 792, 829, 836、845。

これだけを眺めてみても、タイトルは実に多様であり、日本人が親しんできた「30番」、「60番」、「100番」が氷山の一角であることは明らかです。次回はこれらの練習曲の分類を試みたいと思います。

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