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フェルディナンド・ソル《26の練習曲集》第13番 第1~4小節
譜例


改訂版に見られる「反復され、急速なスタッカートで奏され、和声伴奏のつけられたパッセージ」という譜例の解説は、そのまま譜例1に示したチェルニーの第26番の書法に当てはまります。では、この書法が生み出す「素晴らしい効果」とはどのよな効果なのでしょうか。

カスタネットを想起させる連打

 連打はスペインやポルトガルの舞踊に用いられるカスタネットを想起させるので、楽曲にローカルな風情を与えるのに重要な素材と見做されました。ポルトガルの王妃に仕えていたドメニコ・スカルラッティ(1685~1757)はチェンバロのために書いたニ短調ソナタでこの音型を用いています。


D.スカルラッティ《ソナタ》K.141 第1~6小節
譜例


スカルラッティのソナタ集をピアノ用に校訂したチェルニーはチェンバロ時代からのこの伝統をもちろん熟知していていました。チェルニーは、同音連打とアルペッジョというギターと関係の深い音型を用いることで、第26番を通してギターの興趣をかもし出そうとしたのではないでしょうか。

中音域の旋律

第9小節から始まる中間部に関して、チェルニーは更に「同音連打+和声」というテクスチュアに新しい要素を付け加えています。それは、下の譜例4でマークをつけた中間部のレガートの旋律です。


C. チェルニー《30のメカニスム練習曲》 作品849, 第26番, 第9~14小節
譜例


1840年になると、パリ音楽院ピアノ教授ヅィメルマンは自身のメソッドの中で、この点について、以下のように述べています。

ピアノ製造の進歩は、タッチの方法に進歩をもたらした。かつて弱々しかった中声部は、今日では(とりわけグランド・ピアノでは)旋律が最もよく展開される声部となっている。[中略] 歌唱的旋律は、はじめは高音声部に置かれていたが、[弦の]振動に欠陥があったり、力強い音、しかも乾いておらず甲高くない音を出すことが難しいことから、今では歌唱風の旋律を奏でるにはピアノの中声部が好まれている。このような旋律の扱い方のおかげで、ピアノは高貴さを帯び、様式は気高いものとなった※3。

ピアノの弦の改良、より長い弦を用いることによる豊かに持続する響きがもたらされたことによって1840年ころには歌唱風の旋律は中音域に配置されることが好まれました。チェルニーの門弟タールベルクは中音域の旋律を複雑なアルペッジョと組み合わせることで数々の新しい技法を生み出しました※4
チェルニーは第26番で、人声に近い中音域を連打の音型に重ねてリズムの伴奏と旋律を同時に鳴り響かせています。このように、彼はギター風の性格をもつ様式に、1830年代に発展したピアノ特有の中音域の旋律を組み込んで、特徴的な練習曲に仕上げています。



[^1]: Ferdinando Sor, Méthode pour la guitare, Paris, l'auteur, 1830.
[^2]: Ferdonand SOR, Méthode complète pour guitare, rédigée et augmentée de nombreux exemples, avec une notice sur la septième corde, Paris, Schonenberger, 1851, p. 21.
[^3]: Pierre-Joseph-Guillaume ZIMMERMAN, Encyclopédies du pianiste compositeur, Paris, chez l'auteur, p. 27.
[^4]: 譜例は『ピアノ曲事典』、タールベルクの項目参照。