ドビュッシー :海
Debussy, Claude Achille : La mer
作品概要
楽曲ID:3026
楽器編成:ピアノ合奏曲 ジャンル:トランスクリプション
総演奏時間:26分00秒
作曲年:1905
著作権:パブリック・ドメイン
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楽譜情報:1件
作品解説 (2件)
交響詩《海》ピアノ1台4手連弾編曲版総説1905年に管弦楽版の初稿が完成して間もなく、ドビュッシーはこの曲の1台4手連弾用のピアノ編曲に取り掛かり、同年出版にこぎつけた。しかし作家で友人のヴィクトール・セガレン Victor Segalen(1878-1919)が書簡の中で、ドビュッシーの妻エンマのことばを借りながら「演奏不可能だ」[1]と記したように、この編曲は必ずしも好評を得ていたわけではなかった。「常により高みへ(Toujours plus haut)」[2]をモットーとしていたドビュッシー自身も納得していなかったのだろう。それというのも、アンドレ・カプレAndré Caplet(1878-1925)による2台4手連弾編曲を監修するという形でこの交響詩のピアノ編曲に再度取り組んだからである。「よりいっそう親しみやすい」[3]カプレ編曲は1909年の管弦楽版の改定稿を取り入れて、同年に出版された。これら2つのピアノ編曲の相違点は、管弦楽版における初稿と改定稿の間のそれに一致する。第一に、第1楽章の第84−第85小節(練習番号9の2小節前の直前)が改定稿では1小節に縮められていること、第二に、第3楽章の第237−第244小節(練習番号60の直前)に置かれたホルンとトランペットのファンファーレが削除されていることである。つまり、ドビュッシーのピアノ編曲では第1楽章の短縮はされておらず、第3楽章のファンファーレも第2ピアノの右手に反映されているのである。後者については、ピアノの響きを補う効果があるためか、デュラン社による全集版の2台ピアノ用編曲でも採用された[4]。演奏の困難さに注目が集まりがちなドビュッシーのピアノ編曲だが、カプレの編曲を補完する役割を果たしてもいるのだ。第1楽章〈海の夜明けから真昼まで〉5部分で構成される。序奏(第1-第30小節)ではオクターヴによるトレモロに続いて、第1ピアノによって第3楽章で用いられる主題が奏され(練習番号1、第12-第16小節)、次第に切迫する。Modéré, sans lenteurから始まる第1部(第31-第84小節)では、第1ピアノの右手で並行5度の主題が示されたのち、第76小節(練習番号8から5小節目)のクライマックスへ発展し、いったん減衰する。第2部(第85 / 練習番号9-第122小節)は第1ピアノの両手のユニゾンでリズミカルに開始され、緊張感を増しながらffによる第二のクライマックス(練習番号11、第106小節)を形成し再び減衰する。推移部(第123-第132小節)を経て始まるコーダ(第133-第142小節)では、第1部の主題が勢い伴って回帰し、fffによる第三のクライマックスが築かれる。第2楽章〈波の戯れ〉極めて流動的な楽章だが、7つのクライマックスによって進行を捉えることができるだろう[5]。増4度上行音型による最初のモティーフ(練習番号16、第9小節)は切迫して第1クライマックス(練習番号18、第28-第32小節)を、練習番号19(第35小節)の第1ピアノで現れたトリルのモティーフは第2ピアノでの第2クライマックス(第72-73小節)をそれぞれ形成する。小さな第3クライマックス(第99小節)に続いて、第4クライマックス(第115小節)と第5クライマックス(第126小節)が断続的に出現する。第6クライマックス(練習番号32、第153-第160小節)は第2ピアノの力強いバスラインと第1ピアノの両手によるトリルで築かれ、練習番号33(第163小節)で始まるトリル・モティーフの回帰を準備する。練習番号19の再現を経て緊張感が高まり、fffによって第7クライマックス(練習番号38、第215-第218小節)が作られる。しかし、このあと楽曲は急速に減衰し、明確な終止を示さぬまま立ち消える。第3楽章〈風と海の対話〉第1楽章同様に5部分で構成される。序奏(第1-第55小節)の後半(練習番号4、第31小節〜)では第1楽章の序奏で用いられた主題が再登場し、楽章同士の連関を強調する。一方、第1部(第56 / 練習番号44-第156小節)の冒頭に現れる第1ピアノの右手の旋律は、この楽章の主題となる。実際、この主題は第2部(第157-第210小節)では3度繰り返され、第3部(第211-第257小節)の最後(練習番号60、第245小節)でも回帰する。続くコーダ(第258-第292小節)では、目立った主題の回帰はなく、最後のクライマックスに向けて勢いよく突き進む。[1]ClaudeDebussy,Correspondance (1872-1918), François Lesure et Denis Herlin (éd.), Paris, Gallimard, 2005, p. 1062-63, note 6.[2]ジャン・バラケ 『ドビュッシー』(「永遠の音楽家」 7)平島正郎訳 東京:白水社1969p. 121、および、 松橋麻利 『ドビュッシー』(「作曲家・人と作品シリーズ」) 音楽之友社 2007 p. 200。[3]ClaudeDebussy,op. cit.[4]Id., Œuvres pour piano à quatre mains et pour deux pianos (Première suite d’orchestre, Petite suite, Marche écossaise, La Mer, Six Épigraphes antiques, Danses sacrée et profane), dansŒuvres complètes de Claude Debussy, série I/9, Noël Lee et Edmond Lemaître (éd.), Paris, Durand, 2013, XXIV-320 p.[5]Cf. RoyHowat,Debussy in Proportion: A Musical Analysis, Cambridge, Cambridge University Press, 1983, p. 117-118.
交響詩《海》ピアノ1台4手連弾編曲版 総説 1905年に管弦楽版の初稿が完成して間もなく、ドビュッシーはこの曲の1台4手連弾用のピアノ編曲に取り掛かり、同年出版にこぎつけた。しかし作家で友人のヴィクトール・セガレン Victor Segalen(1878-1919)が書簡の中で、ドビュッシーの妻エンマのことばを借りながら「演奏不可能だ」[1]と記したように、この編曲は必ずしも好評を得ていたわけではなかった。「常により高みへ(Toujours plus haut)」[2]をモットーとしていたドビュッシー自身も納得していなかったのだろう。それというのも、アンドレ・カプレAndré Caplet(1878-1925)による2台4手連弾編曲を監修するという形でこの交響詩のピアノ編曲に再度取り組んだからである。「よりいっそう親しみやすい」[3]カプレ編曲は1909年の管弦楽版の改定稿を取り入れて、同年に出版された。 これら2つのピアノ編曲の相違点は、管弦楽版における初稿と改定稿の間のそれに一致する。第一に、第1楽章の第84−第85小節(練習番号9の2小節前の直前)が改定稿では1小節に縮められていること、第二に、第3楽章の第237−第244小節(練習番号60の直前)に置かれたホルンとトランペットのファンファーレが削除されていることである。つまり、ドビュッシーのピアノ編曲では第1楽章の短縮はされておらず、第3楽章のファンファーレも第2ピアノの右手に反映されているのである。後者については、ピアノの響きを補う効果があるためか、デュラン社による全集版の2台ピアノ用編曲でも採用された[4]。演奏の困難さに注目が集まりがちなドビュッシーのピアノ編曲だが、カプレの編曲を補完する役割を果たしてもいるのだ。 第1楽章〈海の夜明けから真昼まで〉 5部分で構成される。序奏(第1-第30小節)ではオクターヴによるトレモロに続いて、第1ピアノによって第3楽章で用いられる主題が奏され(練習番号1、第12-第16小節)、次第に切迫する。Modéré, sans lenteurから始まる第1部(第31-第84小節)では、第1ピアノの右手で並行5度の主題が示されたのち、第76小節(練習番号8から5小節目)のクライマックスへ発展し、いったん減衰する。第2部(第85 / 練習番号9-第122小節)は第1ピアノの両手のユニゾンでリズミカルに開始され、緊張感を増しながらffによる第二のクライマックス(練習番号11、第106小節)を形成し再び減衰する。推移部(第123-第132小節)を経て始まるコーダ(第133-第142小節)では、第1部の主題が勢い伴って回帰し、fffによる第三のクライマックスが築かれる。 第2楽章〈波の戯れ〉 極めて流動的な楽章だが、7つのクライマックスによって進行を捉えることができるだろう[5]。増4度上行音型による最初のモティーフ(練習番号16、第9小節)は切迫して第1クライマックス(練習番号18、第28-第32小節)を、練習番号19(第35小節)の第1ピアノで現れたトリルのモティーフは第2ピアノでの第2クライマックス(第72-73小節)をそれぞれ形成する。小さな第3クライマックス(第99小節)に続いて、第4クライマックス(第115小節)と第5クライマックス(第126小節)が断続的に出現する。第6クライマックス(練習番号32、第153-第160小節)は第2ピアノの力強いバスラインと第1ピアノの両手によるトリルで築かれ、練習番号33(第163小節)で始まるトリル・モティーフの回帰を準備する。練習番号19の再現を経て緊張感が高まり、fffによって第7クライマックス(練習番号38、第215-第218小節)が作られる。しかし、このあと楽曲は急速に減衰し、明確な終止を示さぬまま立ち消える。 第3楽章〈風と海の対話〉 第1楽章同様に5部分で構成される。序奏(第1-第55小節)の後半(練習番号4、第31小節〜)では第1楽章の序奏で用いられた主題が再登場し、楽章同士の連関を強調する。一方、第1部(第56 / 練習番号44-第156小節)の冒頭に現れる第1ピアノの右手の旋律は、この楽章の主題となる。実際、この主題は第2部(第157-第210小節)では3度繰り返され、第3部(第211-第257小節)の最後(練習番号60、第245小節)でも回帰する。続くコーダ(第258-第292小節)では、目立った主題の回帰はなく、最後のクライマックスに向けて勢いよく突き進む。 [1] Claude Debussy, Correspondance (1872-1918), François Lesure et Denis Herlin (éd.), Paris, Gallimard, 2005, p. 1062-63, note 6. [2] ジャン・バラケ 『ドビュッシー』(「永遠の音楽家」 7) 平島正郎訳 東京:白水社 1969 p. 121、および、 松橋麻利 『ドビュッシー』(「作曲家・人と作品シリーズ」) 音楽之友社 2007 p. 200。 [3] Claude Debussy, op. cit. [4] Id., Œuvres pour piano à quatre mains et pour deux pianos (Première suite d’orchestre, Petite suite, Marche écossaise, La Mer, Six Épigraphes antiques, Danses sacrée et profane), dans Œuvres complètes de Claude Debussy, série I/9, Noël Lee et Edmond Lemaître (éd.), Paris, Durand, 2013, XXIV-320 p. [5] Cf. Roy Howat, Debussy in Proportion: A Musical Analysis, Cambridge, Cambridge University Press, 1983, p. 117-118.
収録曲
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