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モーツァルト

モーツァルト

Mozart, Wolfgang Amadeus

1756 - 1791

国内コンサート登場回数: 335回

モーツァルトが生きた時代は、ちょうど鍵盤楽器の交替の時期に当たっていた。18世紀後半の短期間のうちに、専らチェンバロだけが使われていた時代から、ピアノの前身であるフォルテピアノが使われ始め、そしてチェンバロよりもフォルテピアノが使われる時代を経て、現代の「ピアノ」に近い楽器がもっぱら使われる時代へと移り変わっていった。モーツァルトは、この移り変わりの時代を生きたが、本格的な「ピアノ」の時代を見ることなく、その途中で亡くなった。このようにモーツァルトの時代には、タイプとしては、チェンバロとフォルテピアノ、そして別のタイプの楽器であるクラヴィコードの三種類の鍵盤楽器が使われていた。この三種類の鍵盤楽器は、ドイツやオーストリアでは「クラヴィーア」(Clavier)と総称される。モーツァルトの鍵盤作品は、多くの場合、この3種類の楽器のいずれでも弾くことができたと考えられ、おおざっぱに言えば、初期の作品はチェンバロを、そして時代が下るにつれ、フォルテピアノを想定して作曲していったと考えられる。 よく知られているように、今日のピアノの前身である楽器は、1700年頃にフィレンツェのメディチ家に仕えるクラヴィーア制作者、バルトロメオ・クリストーフォリによって発明された。そしてクリストーフォリの発明を発展させ、改良を加え、さらにこの新しい楽器を普及させていったのは、ドイツの鍵盤楽器制作家たちだった。その最も重要な人物が、モーツァルト父子と深い関わりを持ったヨハン・アンドレアス・シュタインで、モーツァルトがシュタインと懇意であったことは、モーツァルトがこの新しい楽器をいち早く知り、この楽器を想定して作品をつくっていく背景となった。 モーツァルトはウィーンに着いて間もない頃、モーツァルトはシュタインのフォルテピアノを弾いていたが、ほどなくアントン・ヴァルターのフォルテピアノを手に入れた。ヴァルターは1780年代のウィーンで突然姿を現したクラヴィーア制作者で、シュタインなどと比べて無名の存在だった。モーツァルトが使っていたヴァルターの楽器は、死後コンスタンツェから息子の手に渡り、現在はザルツブルクのモーツアルト博物館に保存されている。 シュタインの楽器にしろヴァルターの楽器にしろ、この時代のフォルテピアノは、楽器そのものがとても軽かった。現代のグランドピアノはかなり重く、人から借りてまたすぐに返すなどということはまず考えられないが、モーツァルトをはじめ当時のウィーンの演奏家たちは、楽器を頻繁に運んでいた。このように楽器が軽かったのは、フレームが現代のグランドピアノと違って木で出来ていたからで、弦もずっと細く、ハンマーもはるかに軽く、フェルトではなく皮で覆われていた。このような楽器のタッチはとても軽く、鍵盤の深さも半分以下しかないから、おもしろいほど指が回ってしまう。重いタッチの現代のピアノでは四苦八苦するような速いパッセージも、この種の楽器では調子に乗って鍵盤上を指が自在に駆け巡ることになる。演奏に没入すると、どうしても細かいパッセージの箇所を中心にテンポは動きがちになり、好き放題の演奏になりやすい。フォルテピアノのリサイタルに行くとそのような演奏に出会うこともあるが、フォルテピアノでとくにモーツァルトを弾くときに自戒しなければいけないポイントであろう。モーツァルトが幼少から親しんでいた別のタイプの楽器‐それがクラヴィコードだった。クラヴィコードの発音原理は、鍵を押すと木片が持ち上がり、端に取り付けられているタンジェントと呼ばれる真鍮の金属片が弦を打つ、という単純なものである。この単純なしかけで弦を「打つ」とき、振動は鍵に直接伝わり、演奏者は「直接弦に触れている」という実感を持つことができる。指を振わせるとたちまちヴィブラートがかった音が出る。 モーツァルトは早くからクラヴィコードになじみ、その後もクラヴィコードを手元に置き、しばしばこの楽器を使って作曲した。またそのような記録のない作品であっても、たとえば、ウィーンでつくられた有名な「やさしいソナタ」ハ長調(KV545)をクラヴィコードで弾くと、現代のグランドピアノでは表現できない微妙なニュアンスを表現できるような気がしてとても楽しい。私にはこの名作は、もしかしたら主としてクラヴィコードを想定して創られたのではないかとすら思えるときがある。

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